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文書作成日:2025/03/20
米国に相続財産があり国籍の確認が必要な場合の相続手続き

今回は相談事例を通じて、米国に相続財産があり国籍の確認が必要な場合の相続手続きについて、ご紹介します。

Q
今月のご相談

 先日、私の父が亡くなりました。父は婚姻前に仕事の都合上、10年間米国に在住していた期間がありました。米国国籍に帰化はしておらず、国籍は出生から死亡まで日本国籍だったはずです。財産調査の結果、金融資産が米国にもあることが分かりました。相続人は私と弟の2名ですが、弟は3年前から米国に移住しております。
 相続の手続きを進めたいと思っているのですが、どのような書類が必要になるのでしょうか。また、米国の金融資産の対応はどうしたらよいのでしょうか。

A-1
ワンポイントアドバイス

 まず、相続人の確定をする必要があります。
 お父様も弟様も国籍を離脱していないのであれば、戸籍謄本の取得で相続人の確定は可能です。ただ、どちらかが国籍離脱していた場合には、戸籍謄本のみでの相続人の確定はできません。お父様が国籍離脱していた場合には相続人全員による宣誓供述書(※)が必要となり、弟様が国籍離脱していた場合には弟様ご本人による宣誓供述書が必要となります。

(※)宣誓供述書は、相続人自身の身分事項、相続人と被相続人との間の身分関係、そして他に兄弟姉妹等相続人と推定される者がいないことやその他宣誓をして証明したい事項を記載し、米国の公証人にて作成してもらう文書をいいます。

A-2
詳細解説

 金融機関の手続きや不動産登記の手続きの際には、遺産分割協議書を作成し当該書類に相続人全員による署名捺印(実印)が必要になります。

 金融機関や法務局は印鑑登録証明書等の書類と照らし合わせて本人確認を行いますが、米国には印鑑登録の制度はありません。そのため、米国在住の弟様には在外公館にて本人確認のためのサイン証明を取得していただく必要があります。

【サイン証明の発給要件】

  1. @申請者が日本国籍を有していること
  2. A申請者本人が在外公館に出向いて申請すること

【サイン証明の種類】

  1. @貼付型:
    申請者が領事の面前で署名した遺産分割協議書等の私文書に、在外公館が発行する証明書を綴り合わせて割印を行う方法
  2. A単独型:
    申請者の真正な署名を、日本の印鑑登録証明書のように署名証明書で証明する方法

 米国の金融資産の手続きを行うためには、直接米国の金融機関に連絡する必要がありますが、日本からの連絡は、時差や言語の問題があるため容易ではありません。

 また、遺産の扱いについても米国と日本とでは異なります。米国の場合、相続財産が日本の民法のように直ちに相続人に権利移転することはなく、裁判所から選任される人格代表者(遺言執行人・遺産管理人)の下で相続財産・債権者の調査、債務の弁済や納税が行われ、清算後に残った財産が相続人に分配されます。

 この手続きのことを「プロベート(検認裁判)」といいますが、信託の設定(トラスト)、共同名義での財産の所有(ジョイントテナンシー)等のプロベート回避対策がなされていない場合は、原則プロベート手続きが必要となります。

 そして、上記分配金について米国の金融機関は小切手を発行することが多いのですが、日本の金融機関はマネー・ロンダリング対策から外国小切手の取立てを受け付けている金融機関は極僅かのようです。そのため、相続したけれども換金ができないといった問題が生じる可能性があります。

 以上のように国際相続は非常に専門性が高く、思いもよらない問題に直面する可能性が大いにあります。そのため、国際相続を取り扱っている専門家に早い段階でご相談されることをおすすめします。

 なお、今回のご相談は被相続人が日本国籍であることを前提としております。外国籍であった場合には原則として日本法は適用されませんので注意が必要です。

法の適用に関する通則法(第36条)……「相続は、被相続人の本国法による。」

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